稲盛ライブラリーを訪ねてー髄欣記

稲盛ライブラリーを訪ねてー髄欣記

注1:「欣」は筆者の名前で、「随欣」とは、筆者に随って、一緒に見聞するという意

作者:孫欣
引用元サイト名:知蜜(女性起業者のコミュニティ) ·
URL:https://zhimitw.wixsite.com/zhimi
日時:2015年11月23日

張 心怡  訳
松村 淳 構成

 

知蜜(注)の孫欣があなたと女性起業者に関する「小さな物語、考え、気持ち」について話す。――『随「欣」記』注(知蜜:女性起業者は交流ができ、サポートをもらえるコミュニティ)

「一つのことをちゃんとできるには、本当がそんなに聡明でなくてもいいのだ。」

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やっぱり、日本は感動させられるところだ。今回の、日本での遊学は四つの企業を訪れ、その過程の中に、私は常に泣きそうに感動した。彼らの真摯な眼差しも素朴な話もすべて心からの情熱とこだわりを表している。

2015年は知蜜の「初心年」です。(「知蜜」の成立は2014年)。なので、まず日本の京セラの創始者、稲盛和夫についてお話しをしましょう。彼は初心の精神を極地に発揮したビジネスリーダーであり、哲学者だ。

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京セラ –稲盛和夫

京セラ株式会社―1959年4月1日に成立し、全世界における事業は原料、部品、設備、機械、サービス、ネットなど多くの分野に及んでいる。

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今となってはおかしいと思うが、私が昔、記者をやっていた時、稲盛さんは私の心の中では単なる「報道に値する人物」に過ぎなかった。私は彼のことを記事にしていたが特別な想いを持っているわけではなかった。しかし、今回稲盛さんが設立した日本京セラ株式会社に見学に入って、自分の目でその素朴な環境や生き生きとした歴史、社員たちの真摯な眼差しを見たとたん、私の心には本当の感動が生じた。彼の経営哲学は1つの文章、1つの授業、1つの研究ではなく、それらは京セラの血に滲み込んでいるある精神だと感じた。

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実は、日本の経営の神様と言われた稲盛和夫さんは、品行方正で成績優秀な子どもというわけではなかった。中国人の言い方になるが、彼は小進中(注)にも落ち一回目の大学入学試験にも落ちていたり、人生の中で何回も失敗したりして、ヤクザになるような危うい状況もあったという。そんな彼がその後に成功したのには、二つの理由がある。一つは、彼の小さい頃はちょうど戦後だったということだ。日本は爆撃され、稲盛さんの鹿児島での実家も取り壊され更地となってしまった。そのため、彼は戦争にすごく反抗し、人に対する憐憫と思いやりがたくさん溢れている社会に育ったことである。
二つ目は彼が若い頃に学んだ「敬天愛人」の理念です――「天理を敬い、人を思いやる」、そのように、彼は精神の柱を持つようになり、毎回選択を下す時、彼はその「利他」の理念を指針としてすべての行動をするのだ。
(注)(小進中:小学校から中学校への進学)

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「敬天愛人」のような言葉は、多くの人から見れば高嶺の花のようだ。しかし、稲盛さんから見れば、すべての経営哲学はこの四文字にかなわない。そう彼は信じている。だからこそ、パワフルだ。彼は「敬天愛人」を徹底的に具体化した。社員の利益を株主の前に置き、彼はコラボレーターとサプライヤーと長期的な関係を保っている。さらに彼の最大なライバル、ソフトバンクの孫正義とも莫逆の友になれる。孫正義さんも稲盛さんの学生となった。

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1983年、日本の電話料金が高いため日本は通信の市場を開放した。その時、稲盛さんは通信の市場に入り、通話料金をできるだけ安くしようと思った。理事会議で報告を発表した時、稲盛さんは日本の電話料金を安くするため、通信会社を成立したいと公言した。そうしたら、理事会からの抵抗を受けた。しかし、稲盛和夫は落ち込まなかった。彼は寝る前に、いつも次のように自問自答した

動機善なりや、私心なかりしか?
この行動は人気取りのためではないか?
私は後世に名をとどめたいという私心や雑念をもっているのか?
国民の利益のためだという動機は純粋なのか?

自分の心を省察することを通して、稲盛和夫はある結論を下した。自分が世のため、人のためにひたすら力を尽くすという志が揺れていないと確信している。最終的に電気通信の領域に入ろうと決め、コラボレーションでKDDIを設立することに成功し、ソフトバンクと競争的ライバルとなった。KDDIは大幅に通信料を安くすることを通して、一気に大量なマーケットシェアを占めた。

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2010年、78歳の稲盛和夫は政府に日本航空を再建することを頼まれた。そのように、倒産の危うい状況であった日本航空を、二年間の間に利益を出す状況に復活させ、再上場させた。それどころか、世界的にみても利益率の最も高い航空会社にしてみせたのである。

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当時、稲盛和夫が日航に入って、最初にやったことは、幹部たちに三か月の研修授業を開設したことだ。多くの社員はそれらの経営哲学の素朴さに驚いた。彼らは時間が経つとともに、その中に含まれた力を感じ、どんどん変化していったのである。

私は京セラで稲盛和夫の経営哲学の写真を撮ったので、皆さん一緒に考えましょう~

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人生・仕事の結果=考え方×情熱×能力

人生・仕事の結果は、考え方×熱意×能力という一つの方程式で表すことができる。

何で私はその方程式を考え出したのか。私は中学校進学試験、大学進学試験、就職試験の時、毎回が理想的ではなくて、願望から落ちた。仕事に入って考え始めたのが、私のような凡人が、美しい人生を過ごすには、どんな条件が必要であろう?同時に、周りを観察して、仕事も人生も成功した人がいれば、失敗した人もいる。これを見れば、なんである人は人生も仕事も順調だが、ある人は順調ではないのか考えた。この中に何か法則があるかな?

このように、京セラを創立したしばらくの間に、私はこの方程式を考えた。その後、この方程式に従って仕事に取り組んで、人生の道を進んでいった。

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心に描いたとおりになる

 ものごとの結果は、心に何を描くかによって決まります。「どうしても成功したい」と心に思い描けば成功しますし、「できないかもしれない、失敗するかもしれない」という思いが心を占めると失敗してしまうのです。心が呼ばないものが自分に近づいてくることはないのであり、現在の自分の周囲に起こっているすべての現象は、自分の心の反映でしかありません。

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私たち人生の目的

 私たち人間が生きている意味、人生の目的はどこにあるのでしょう。最も根源的ともいえるその問いかけに、私は真正面から、それは心を高めること魂を磨くことにあると答えたいのです。

昨日よりましな今日であろう、今日よりよき明日であろうと、日々誠実に努める。その弛まぬ作業、地道な営為、つつましき求道に、私たちが生きる目的や価値がたしかに存在しているのではないでしょうか。

現世とは心を高めるために与えられた期間であり、魂を磨くための修養の場である。人間の生きる意味や人生の価値は心を高め、魂を錬磨することにある。まずは、そういうことがいえるのではないでしょうか。俗世間に生き、さまざまな苦楽を味わい、幸不幸の波に洗われながらも、やがて息絶えるその日まで、倦(う)まず弛(たゆ)まず一生懸命生きていく。そのプロセスそのものを磨き砂として、おのれの人間性を高め、精神を修養し、この世にやってきたときよりも高い次元の魂をもってこの世を去っていく。私はこのことより他に、人間が生きる目的はないと思うのです。

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人間として正しい生き方

「小学校の道徳のようなことをいう」と笑う人がいるかもしれません。しかし、その小学生のときに教わったようなことを、私たち大人が守れなかったからこそ、いまこれほどまでに社会の価値観が揺らぎ、人の心が荒廃しているのではないでしょうか。

いま、子どもに向かって堂々とモラルを説ける大人がどれほどいるか。これはしてはいけないことだ、あれはこうすべきだと、明確に規範を示し、倫理を説ける。そういう識見と精神、重厚な人格を有した人物がどれだけ出てきたか。

それを思うと、私なども忸怩(じくじ)たる思いにとらわれないわけにはいきません。正しい生き方とは、けっしてむずかしいことではないはずです。子どものときに親から教わった、ごく当たり前の道徳心 ― 嘘をつくな、正直であれ、人をだましてはいけない、欲張るな ― そういうシンプルな規範の意味をあらためて考え直し、それをきちんと遵守することがいまこそ必要なのです。

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常に明るく

人生はすばらしく希望に満ちています。常に「私にはすばらしい人生がひらかれている」と思い続けることが大切です。決して不平不満を言ったり、暗くうっとうしい気持ちをもったり、ましてや人を恨んだり、憎んだり、妬んだりしてはいけません。そういう思いを持つこと自体が人生を暗くするからです。非常に単純なことですが、自分の未来に希望をいだいて明るく積極的に行動していくことが、仕事や人生をより良くするための第一条件なのです。

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常に謙虚であらねばならない

世の中が豊かになるにつれて、自己中心的な価値観をもち、自己主張の強い人が増えてきたといわれています。しかし、この考え方ではエゴとエゴの争いが生じ、チームワークを必要とする仕事などできるはずはありません。

そこで集団のベクトルを合わせ、良い雰囲気を保ちながら最も高い能率で職場を運営するためには、常にみんながいるから自分が存在できるという認識のもとに、謙虚な姿勢をもち続けることが大切です。

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「宇宙意志」と調和する

宇宙には、すべてをよくしていこう、進化発展させていこうという力の流れが存在しています。それは、宇宙の意志といってもよいものです。宇宙を貫く意志は愛と誠と調和に満ちている。ですから、私たちの考えが発信するエネルギーが宇宙の意志と調和か否かで私たちの運命を決めるのです。もしあなたが美しい心をもっていて、宇宙の流れに乗って行けば、あなたの人生は必ず明るさに満たされるだろう。

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仕事を好きになる

自分が燃える一番よい方法は、仕事を好きになることです。どんな仕事であっても、それに全力を打ち込んでやり遂げれば、大きな達成感と自信が生まれ、また次の目標へ挑戦する意欲が生まれてきます。その繰り返しの中で、さらに仕事が好きになります。そうなればどんな努力も苦にならなくなり、すばらしい成果を上げることができるのです。

仕事に「恋をする」

恋をしている人は、他人が唖然とするようなことを、平然とやってのけるものです。

仕事も同様です。仕事に惚れて、好きにならなければなりません。他人からは、「あんなにつらく、あんなに厳しい仕事は、たいへんだろう。とても続かない」と思われるような場合も、惚れた仕事なら、好きな仕事なら耐えられるはずです。

仕事に惚れる、仕事を好きになる。だからこそ、私は長い間、厳しい仕事を続けることができたのです。

人間が、好きな仕事ならば、どんな苦労も厭いません。そして、どんな苦労も厭わず、努力を続けることができれば、たいていのことは成功するはずです。つまり、自分の仕事を好きになるということ――この一事で人生は決まってしまうと言って過言ではありません。

充実した人生を送るには、「好きな仕事をするか」「仕事を好きになるか」のどちらかしかないのです。しかし、好きな仕事を自分の仕事にできるという人は、「千に一人」も「万に一人」もいるものではありません。また、希望する…(写真にうつる文字はここまでです。)

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地味な努力を積み重ねる

大きな目標を掲げても、日々の仕事の中では、一見地味で単純と思われるようなことをしなければならないものです。しかし、どのような分野であっても、すばらしい成果を見出すまでには、改良・改善の取り組み、基礎的な実験やデータの収集、足を使った受注活動などの地味な努力の繰り返しがあるのです。偉大なことは最初からできるのではなく、地味な努力の一歩一歩の積み重ねがあって初めてできるということを忘れてはなりません。

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完全主義を貫く

よく90パーセントうまくいくと「これでいいだろう」と妥協してしまう人がいます。しかし、そのような人には、完璧な製品、いわゆる「手の切れる製品づくり」はとうていできません。「間違ったら消しゴムで消せばよい」というような安易な考えが根底にあるかぎり、本当の意味で自分も周囲も満足できる成果を得ることはできません。

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常に創造的な仕事をする

一生懸命取り組みながらも、常にこれでいいのか、ということを毎日毎日考え、反省し、そして改善、改良していくことが大切です。決して昨日と同じことを漫然と繰り返していてはいけません。毎日の仕事の中で、「これでいいのか」ということを常に考え、同時に「なぜ」という疑問をもち、昨日よりは今日、今日よりは明日と、与えられた仕事に対し、改善、改良を考え続けることが創造的な仕事へとつながっていきます。

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渦の中心になれ

仕事は自分一人ではできません。上司、部下をはじめ、周囲にいる人々と一緒に協力しあって行うのが仕事です。その場合には、必ず自分から積極的に仕事を求めて働きかけ、周囲にいる人々が自然に協力してくれるような状態にしていかなければなりません。これが「渦の中心で仕事をする」ということです。

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ベクトルを合わせる

人間にはそれぞれさまざまな考え方があります。もし社員一人一人がバラバラな考え方にしたがって行動しだしたらどうなるでしょうか。

それぞれの人の力の方向(ベクトル)がそろわなければ力は分散してしまい、会社全体としての力とはなりません。全員の力が同じ方向に結集したとき、何倍もの力となって驚くような成果を生み出します。1+1が5にも10にもなるのです。

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私心のない判断を行う

人はとかく、自分の利益となる方に偏った考え方をしてしまいがちです。みんなが互いに相手への思いやりを忘れ、「私」というものを真っ先に出していくと、周囲の協力も得られず、仕事がスムーズに進んでいきません。

私たちは日常の仕事にあたって、自分さえよければという利己心を抑え、人間として正しいか、私心をさしはさんでいないかと、常に自問自答しながらものごとを判断していかなければなりません。

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楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する

新しいことを成し遂げるには、まず「こうありたい」という夢と希望をもって、超楽観的に目標を設定することが何よりも大切です。

しかし、計画の段階では、「何としてもやり遂げなければならない」という強い意志をもって悲観的に構想を見つめなおし、起こりうるすべての問題を想定して対応策を慎重に考え尽くさなければなりません。

そうして実行段階においては、「必ずできる」という自信をもって、楽観的に明るく堂々と実行していくのです。

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値決めは経営

経営の死命を制するのは値決めです。値決めにあたっては、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、その価格決定は無段階でいくらでもあるといえます。どれほどの利幅を取ったときに、どれだけの量が売れるのか、またどれだけの利益が出るのかということを予測するのは非常に難しいことですが、自分の製品の価値を正確に認識したうえで、量と利幅との積が極大値になる一点を求めることです。

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売上最大、経費最小

経営とは非常にシンプルなもので、その基本はいかにして売上を大きくし、いかにして使う経費を小さくするかということに尽きます。利益とはその差であって、結果として出てくるものにすぎません。したがって私たちはいつも売上をより大きくすること、経費をより小さくすることを考えていればよいのです。
常識や固定概念にとらわれてはなりません。売上最大、経費最小のための努力を、日々創意工夫をこらしながら粘り強く続けていくことが大切なのです。私が参観する中で、稲盛和夫の理念を一つ一つ写真で撮るのは、皆さんと一緒に信じ、そしてそれを行動にすることを願っているから。

私たちが信じるのは、頭で考え出した一時的な、表面的なものだ。理念と精神こそたちが正しい決定を下すことを支える終結的な力なのです。

附:稲盛和夫の『生き方』、『働き方』、『稲盛和夫自伝』は彼の三冊の経典的な本で、皆さんにお勧めします。

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