稲盛和夫氏が人生で体験した報告書

稲盛和夫氏が人生で体験した報告書

作者:王育琨
引用元サイト名:「稻盛和夫的人生体验报告」『中国経済週刊』(2011年第49期)
URL:http://mall.cnki.net/magazine/Article/JJZK201149036.htm

張 心怡  訳
松村 淳 構成

著者 王育琨

ビジネス哲学者、マネージメントとM&Aの専門家
清華大学長三角研究員中国企業家思想研究センター主任
グローバル・エムアンドエー研究センター学術委員
山東大学経営管理学院、南京航空航天大学経営管理学院 特任教授
企業・グループの顧問

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珠玉の言葉:代表取締役、重役管理職、専門家、権威者、経験豊かな人、二枚舌を使わない人、救世主といった肩書を全部太平洋に捨てる。

ニーチェは、人生にはラクダ、獅子、赤子という三つの精神的な変形があるという。人間は生まれたばかりの時は、砂漠の中に重荷を背負って進むラクダのようだ。困難な環境の下に何かを引き受け、責任を負い、そして創造するという段階を経験しなければならないのだ。そうしてこそ、「獅子」になるのだ。獅子なら、居場所としての山を占有し、至上の光栄を抱くようになる。しかし、獅子も極めて危険な境遇に直面している。君臨天下、天下に敵するものなしと思い込んだ感覚は、彼らを壊滅する巨大な危機になる。この難関を乗り越える肝は、「獅子」から「赤子」に生まれ変われるかどうかにあるのだ。「赤子」のような純真さは、彼らが生存の危機から脱出する唯一の方法だ。

アップルの創業者スティーブ・ジョブズは極致を創造した。彼の成功へのアクセスコードは、「永遠の初心者になる」ということだった。赤子の純真な心を持ったため、彼は「万象が一斉に現れる」ということをいつでも見えるし、「万法が全て含まれている」ということをどんな瞬間でも悟る。稲盛和夫氏はスティーブ・ジョブズと同じように偉い人だ。彼は「本当の自分」として生きているだけではなく、軽妙洒脱な人生を生きている。それに、彼は「敬天愛人」の理念で、無尽蔵な活気が湧いてくる境地を築き、人を成就させ、開放させる方法を作った。それはどんな組織や団体でも担わなければならない責任と使命だ。

「稲盛さんはどうやって摂生しているのか。」と人に聞かれた時、稲盛さんは、「摂生することには関心がなかった。仕事が私にとっての摂生だ。」と答えた。

仕事と摂生とはイコールだ。それは論理ではなくて、完全に命の奥底に生起する震えであり、本性の現れである。このような生命の状態は、稲盛哲学が中国で企業家の共鳴を引き起こしたもっとも重要な理由である。稲盛哲学は、稲盛さんが人生で体験したことの報告だ。この体験報告は人の知恵を開き、人の内面の源泉の蛇口を開くという役割を果たした。

哲学者のバートランド・ラッセルはインタビューを受けていた時、記者に「この(インタビューの)画像は1000年後の人々にも見られるかもしれません。ラッセルさんは、千年後の人に何か伝えたいことがありますか。」と聞かれた。ラッセルは、「知恵と愛は、1000年後の人類の間に深く行き渡るのだ。一番目は知恵。すべては事実から発し、純粋なそのままで、真相通りに反映される。二番目は心からの慈悲と愛だ。愛は人類をつなげるもっとも基本的な方法になるのだ。このようなつながりがあれば、世界は活力と幸せで溢れる。」と言った。ラッセルが言ったのは敬天愛人だ。

稲盛和夫さんは、千年後に「敬天愛人」を実施するのではなく、今すぐ実施したいのだ。考え方の統一は、企業経営にとって一番重要なことだ。稲盛さんは「敬天愛人」のような一体的な考え方を、累加関係のある三つの方法を使って社員に浸透させている。

一番目は50年ずっと続いている朝礼である。二番目は50年間も続いてきた、京セラに特有の月二回のコンパ。そして、三番目は企業家、上層管理職、管理者たちが自らの魅力的な人柄によって、上から下へと教えを受け継ぐことだ。

ある企業家は、5万元(約80万円)分の稲盛和夫さんの『生き方』を買って、社員一人一人に配った。私は「あなたは社員に稲盛さんの哲学を読ませて、仕事の態度を変えてほしいという。あなたは、稲盛さんの本を買って読ませるだけで、社員たちに新しい生き方と働き方へ変わってもらおうと思うのか?それは大間違いだ!」と彼に言った。

彼は理解できなかった。私は彼にこう説明した:「あなたは5万元(約80万円)の照魔鏡(注:偽った妖怪の正体を照らし出す魔法の鏡)を買って、社員一人一人に配ったのだ。社員である彼らはこれを使って社長であるあなたを360度にわたって観察をし、社長であるあなたがどうやって汗をかいて、社員である彼らを働かせようとしているのかはっきりと分かるようになる。稲盛哲学を学ぶ時に大切なのは、社長が率先して身をもって努力実行することにある。社員たちはあなたが何を言っているのかを見るのではなく、あなたがどう行動するのかを見ている。「敬天愛人」を勉強しているのに、やはり普段は威厳を持って威圧的に振る舞うのなら、社員たちはあなたを軽蔑して、相手にしない。」

代表取締役、重役管理職、専門家、権威者、経験豊かな人、有言実行の人、救世主、といった肩書を全部太平洋に捨てるなら、あなたはシンプルな人になり、赤子になる。もしあなたが赤子のような純真さを持てば、チャーミングなリーダーになり、あなたも1000年後の人々とつながることができるのだ。」

 

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