企業での実践:株式会社LIFULL

フィロソフィ教育/企業での実践

株式会社LIFULL

「利他主義」を社是にフィロソフィで率いる

株式会社リンクアンドモチベーション開催「ベストモチベーションカンパニーアワード2017」第1位、Great Place to Work®2017年度版日本「働きがいのある会社」第4位、同じく「女性の働きがいが優れている企業」第3位(いずれも従業員100~999名部門)に選ばれた株式会社LIFULL。2017年4月に、株式会社ネクストから株式会社LIFULLに社名を変更し、「LIFE(暮らし、人生)」を「FULL(満たす)」サービスを生み出し続けています。その基盤を支える人事と教育について、特にフィロソフィに焦点を当て、代表取締役社長の井上高志さん、人事本部長の羽田幸広さんにお話を伺いました。

あらゆるLIFEFULLに。社会を変えるサービスをつくる。

若いころ、マンションのデベロッパーで販売員をしていた井上社長が、売り手と買い手に情報量の差がありすぎることに義憤を持ち、不動産業界を透明な業界にしたいと考えて始めた事業が、インターネット上で不動産・住宅情報サイト「ホームズ(現LIFULL HOME’S)です。不動産情報を一元化したこのサービスにより、井上社長の「一生に一度の大きな買い物である不動産――家を、選択肢のある中で、お客さまに納得して購入してほしい」という願いはかない、不動産業界の常識は大きく変わりました。

LIFULLでは現在、100の子会社を目指して、新しいサービスを次々に生み出しています。「不動産業界もそうでしたが、買い手と売り手の情報の非対称性や、不便さは、あらゆるところにあります。そんな情報の非対称性や不便さにフォーカスし、その業界をしくみから変えていく事業こそ、私たちが取り組むべき事業であると考えています」と話す井上社長。「我々の会社の経営理念には『常に革進する』という言葉が入っています。そして、社是として『利他主義』を標榜しています。つまり、連続的にイノベーティブな価値を提供していくことで、より多くの人々を幸せにするというのが、我々の会社のフィロソフィであり、ビジョンなのです」。

日本一働きたい会社へ。社員とともに考える人事と教育のプロジェクト。

「シンプルに『自分が社員だったらどう感じるか』を判断基準に施策を考えてきただけなんですよ」。井上社長とともにLIFULLの人事、人材育成をけん引してきた羽田人事本部長は、軽やかにそう語ります。「誰でも、やらされ仕事よりも、自分で考えて動ける仕事の方が楽しいですし、気持ちのいい人と仕事をしたい。何より、会社に貢献した人がちゃんと報われる会社でないと」。

転機は2008年1月。「日本一働きたい会社プロジェクト」のスタートでした。自分たちが働きたい会社を自分たちで創る。プロジェクトメンバーには経営層と人事だけでなく、社員323名(当時)のうち80名が加わり、さまざまな人事施策を考えて実行していきました。

例えば、社員が講師として教える「LIFULL大学」(社内大学)、社長が塾長を務める経営塾、勤務時間の10%を自由研究に充てられる「クリエイターの日」、ガイドラインを体現しているかを問う8項目360度評価など。社員自らがキャリアビジョンを描き、キャリアパスを選べることも、働きがいや働きやすさにつながっています。育休後の復職率は100%。かぞく参観日や特別有給休暇を活用した社会貢献プログラムもあります。

求めているのは同志。フィロソフィを共有し、ビジョンに向かう。

それぞれの人事や教育の施策は、イノベーティブな人材のモチベーションに働きかけるよう設計されていますが、そのベースとなっているのが、社是と経営理念(フィロソフィ)、行動指針であるガイドラインの共有です。稲盛和夫氏が塾長を務める盛和塾の塾生でもある井上社長は、フィロソフィ、つまり価値観の共有なくして、ビジョンの実現はないと考えていました。会社はどこに向かうのか、何を大切にしているのかを明確にし、それを実現するための施策を打ち、ぶれずに評価することが大切だと。

社員がいつも携帯する「ビジョンカード」は、社是と経営理念(フィロソフィ)、ガイドライン共有のための、シンプルですが力強い施策のひとつ。企業としての価値観がオープンにされたこのカードを、社員はお客さまや取引先、就活で訪れる学生にもこのカードを渡しています。そして、渡すたびに、フィロソフィとガイドラインを目にし、外部からのフィードバックによって、さらに強く意識するようになるのです。

採用の場面でも、最も重視するのは「フィロソフィを共有できるかどうか」。特に新卒採用では、ある程度の選考を通過した学生一人ひとりに人事担当がアドバイザーとして付き、彼らの会社選びの軸を整理していきます。「優秀な学生でも、経営理念に合っていなければ採用しませんし、来てほしい学生でも、彼らにとってよりよい選択になるならば、他の会社に行くことを薦めることもあります。そうやって、経営理念実現に向かう同志を採用しています」。採用こそ、企業の価値観が明確に表れると、羽田人事本部長は考えています。

フィロソフィの共有において、もうひとつLIFULLが重視していることがあります。経営層とミドルマネジメント層の判断基準がぶれないことです。利他主義を標榜し、自由で挑戦を歓迎する社風を創ろうというのに、マネジメント層がぶれてしまうと、社員は白けてしまうからです。耳ざわりのいいことを言っても、本気ではないんだなと。

「例えば、利他と利益が相反するとき、どう判断するか」。真剣な表情を見せる羽田人事本部長。「もちろん企業ですから、まずは両方というわけですが(笑)。それでもどうしても共存させることができない場合、迷いなく利他を優先させる判断をマネジメントができなければ、社是も経営理念もすべて嘘になってしまいますから」。

そのための実践として力を入れているのが、半年に1回のミドルセッションです。井上社長と人事部門でコンテンツをつくり、社長自ら講師を務め、価値観の共有を図っているのです。「現場リーダーがぶれたり、フリーライダーになってしまうと、一般社員のモチベーションは大きく下がります。彼らが社長や経営層の分身のように動けるように、階層別研修も頻繁に行っています」。

公益志本主義社会に向けて。すべてのステークスホルダーに配慮した経営を。

「利他主義」を社是とし、「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」を経営理念とするLIFULL。井上社長は、経営者の立場から、社会の仕組みを変えるサービスを世に問うていくことで、新しい資本主義社会の実現を目指しています。

「これからの世界は『公益志本主義』に向かってほしいと願っています」。井上社長はあえて、『資本』ではなく『志本』という言葉を使っています。なぜ、志が原資になるのでしょうか。「資本主義は本来、企業の関係者にうまく利益を分解し、利他を実践していくための経営活動だと思うんです。でも今は、株主側に利益が寄り過ぎている状態で、バランスを欠いています」。

「そうではなくて、真ん中に利他主義があって、それぞれコンシューマー、一般消費者やお客さま、一緒に働いてくれる従業員、それから取引先、パートナー、株主、地球環境まで含めて、みんなで社会を形成しているという形こそ、我々が目指す社会ではないかと考えています。すべてのステークスホルダーに対して、いわば同心円で、すべてを調和させた経営が、これからは重要になるのではないかと」。

「このような考え方で、いわゆる20世紀型の資本主義ではなくて、すべてのステークスホルダーに配慮した社会を創っていこうという志を持った人たちと一緒に、この考えを広めていきたいと『志』という言葉を入れました」と話す井上社長。社会の仕組みを一つひとつ変えていくサービスを提供するだけでなく、新しい社会のあり方を示唆する経営を目指す株式会社LIFULL。フィロソフィを共有する社内外の同志の存在が、LIFULLの躍進の原動力となっています。

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