「アメーバ」現地化の難しさ

「アメーバ」現地化の難しさ

――独立採算とは直接お金を分けることではない?――

 

作者:謝丹丹
引用元:『中外管理雑誌』百家号(注:ブログ名)
URL:https://baike.baidu.com/item/中外管理/9941262?fr=aladdin
日時: 2018年3月30日

 

 

張心怡 翻訳
松村淳 構成

 田和喜氏(注1)が「理念+ソロバン」の考え方を使ってアメーバの中国現地化を推し進めるまで、コンサルティング業界は、アメーバという経営スタイルがうまく機能するとは思わなかったという。
(注1 田和喜氏:「道成」というアメーバの中国現地化を研究するコンサルティング会社の創始者。)

その理由は、まず、中日文化の風土の違いであり。次に両国文化に基づく人間性も完全に同じとは言えないという点である。ハイアールの張瑞敏氏が素直に、日本企業は「敬天愛人」で、中国企業は「敬己愛金」だと言った。

多くの経営実践者は当初、社員に利他の心を持ってほしいというが、結局部門と部門とが真っ向から対立するようになり、企業の利益が損害されてしまった。アメーバは労働と資本の矛盾を解決しなかったと言った人もいる。また、専門家も社員が自主的に経営することを促すため、内部の市場化が導入されるのが、もっと分厚い壁をもたらすだけだと正直に語った。

もっとも現実的な理由は、中国企業の経営管理の基礎が薄くて、多くの企業がアメーバを推し広げる時、データさえ収集できなかったからである。企業は「経営理念で管理の実行を促す」という運営の道理を実現できなかった。

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「道成コンサルティング・グループ」(注2)の創始者、田和喜氏は表面的な方法論にとどまらず、アメーバの要点(つまり経営の原理)を捕まえなければならないという。彼は、「アメーバは「やるためにやる」のではなく、まずその裏にある本質的なものを理解しないといけないと述べる。経営理念というメインの軸をつかまえて、トップワンの経営意志を実行することと、企業の利益を高めることをめぐって、そして基礎的な管理の仕事を振り返って見て、不足なところを補うのだ」と主張する。
(注2:アメーバ中国現地化のコンサルティングを専門とする会社。)

1.経営意識を高めることが肝心だ

広州郊外にあるホテルには、600人の企業家と彼らが連れてきた管理職のチームが、全国から集まった。これからの3泊4日で、どうやって「理念+ソロバン」の考え方を使って、アメーバの中国現地化を実現するか、そのための方法論を彼らは学ぶのである。同じようなコースに対して、繰り返して六回、七回も参加した塾生もいる。自分たちの組織の中でアメーバを推し進めていきながら、それが新しい段階に入るにしたがって、彼らは毎回新しい感想と課題を持って、ここに戻ってくるのである。

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今回教壇に立ち、皆さんに経験をシェアする優秀な塾生は、「酒仙ネット」の取締役――郝鸿峰氏だ。白酒のeコマース業界で、誰でも知っているカリスマ経営者である。それでも、見栄えのいい「酒仙ネット」の裏にあるのは、連年の赤字で、2015年度の赤字は2.51億元(約39.7億円)までに至った。

田和喜氏と知り合う以前、郝鸿峰氏は他人と同じように、eコマース業界では、赤字はごく普通なことで、業界の兄貴分としての「酒仙ネット」さえ、何億元の赤字も当たり前だと思っていた。しかしその後、身近にあるインターネット企業はだんだん少なくなってきて、幾つかの実力のある「垂直采」(商品をメーカーから直接お店や消費者に提供できるショッピングウェブサイト)のサプライヤーも社員の給料とローンを滞納し始めた。「この業界なら赤字じゃないと続けられないのか。そしたらいつか私たちも彼らのように落ちぶれるのだろう」と郝氏は思った。

ところが「理念+ソロバン」のアメーバ経営モデルの導入のおかげで、2017年「酒仙ネット」は初めて黒字化を実現した。収入の道を拡大していく面において、中〜上級管理層の経営意識が著しく高まったことが原因である。商業モデルの再構築が触発され、売上高が穏やかに上昇したのだ。一方、支出を切り詰める面においては、部門ごとの独立採算システムの設立と、人事評価&激励システムがレベルアップされることよって、内部の運営効率が大幅に高められ、毎年約1億元(約15.8億円)の費用が節約された。

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このように、「理念+ソロバン」のアメーバ経営モデルから利益を受けた企業は少なくないのだ。「中集瑞江」(タンク車メーカー)は一年間アメーバを拡大した結果、売上高と利潤両方が倍になった;「華陽精机」(パーツと金型の会社)の純利潤が2%から18%に上った;唐人神(養豚業の会社)の業績は、前の不利な勢いを一転して、利潤の増加は200%以上高まった等……

田和喜氏はたくさんの企業がアメーバは中国の風土に合わないと思っていると述べた。その根本的な理由は、アメーバの裏にある「経営の大道」を企業が把握していないからだという。実は、アメーバの最終的な目的は経営型人材の育成で、独立採算は表面的な手段にすぎない。

彼はさらにこう解釈した。アメーバ経営の初心は、「売上高最大化、費用最小化」を実現することである。したがって社員全員は社長のように、社長の立場に立ち、「どうすれば業績を上げられるのか」、「どうやって費用を下げるのか」、「どんなところではまだまだ改善の余裕があるのか」など絶えず考える。経営会計のシステムが「照魔鏡」(真実を映す鏡のたとえ)のように、企業の問題をすぐに照らし出す。そのすべては、採算意識を通して社員の経営能力を高めるものだ。赤字から素早く黒字に転じる経験を持った後、郝氏は、中国企業は水でいっぱいのタオルのようで、かたく絞るまではまだまだ工夫が必要だ。今は水分がまだ多すぎるという。

2.経営の考えによって、管理の実行を駆使する

なぜ田和喜氏は、アメーバの一番重要な価値は、経営というメインの軸によって管理を駆使するということにあると思っているのだろうか。彼は少なくない管理制度が形骸化していることを観察した。例えば、多くのホテルのレストランは、お客さんの朝食券をチェックすることを社員に要請するが、最初から最後まで責任を取ってチェックを徹底する社員は多くない。毎日何枚かの記入を忘れるのが普通だ。

それはなぜだろう?チェックするかしないかは社員の報酬に直接関係しないし、企業が朝食で受益するかどうかも分かる必要がないからだ。この時、制度はただの「置物」になっている。もし管理者が他のやり方に変えればどうだろう。例えば朝食から生じる利益を、社員本人と関連させ(朝食券一枚で50元(約800円)で100人なら、その日は5000元(約80000円)の収入がある)、運営のコストを除いた利益を社員に直接、または間接に分け与えたとすればこの問題は容易に解決するだろう。

したがって企業は経営の仕組みを強化することで、管理の流れと制度を簡略化するべきだ。実は、企業は成立したばかりの時、そんなにたくさんの重い規制や制度がなかった。だからお金を稼げるのだ。しかしその後、企業が大きくなればなるほど、管理はどんどん細かさを求めていくようになる。大量な規制や制度は、人手によって維持したり実行したりしなければならないから、コストが高くなる。「流れと制度はますます厚くなるようになり、利益を受けるという基本的な目標がぼけてくる。これは過去三十年、中国企業が西洋の管理術を学んだ後、普遍的に存在している問題だ。実は、外国も本当の経営管理の核心技術を中国に輸出しなかった。」と田和喜氏が言った。だから、「管理の問題は経営によって解決するしかない。そうしたからこそ、複雑な管理が簡単になり、中国企業が次の段階へ転換することが支持されるのだ。」

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彼から見れば、過去作った一式の規制と制度は、人をコントロールするもので、結果は理想と逆になる。その代わり、もし経営の考え方を使って、社員たちを自発的、自動的、自主的に行動させ、価値を創造するようになったら、効果が180度に大転換するのだ。なぜ社長は複雑な規制や制度がなくても、自発的に自動的に会社を経営するのだろうか?

その根本的な理由は、彼は、企業の利益と自分自身とが密接に関連し合っているからだ。経営という考え方は、社員を社長の立場に立たせ、問題を考えさせるのだ。

3.すべての道は「アメーバ」に通ず

アメーバの中国での広がりは、ずっと難しいことだったが、なぜ「道成コンサルティング」はアメーバ現地化の秘密を知っているのだろう?ある企業の社長は「アメーバを推し進めるには採算が大事で、今採算がとれていないから、アメーバを推進できない」と思っている。またある社長は、「企業は最小単位までの細かい独立採算をするのがアメーバだ。そうじゃないと、アメーバではない」と思っている。

それについて、田和喜氏はこう考えている。彼はずいぶん前から中国企業の経営基礎がまちまちなので、固着された一つの形では制限できない。アメーバも万能な固着されたモデルではない、それは原理から発して一層一層剥がすことで企業の現状や目下の問題の核心に切り込み、目標をめぐって一つ一つの段階まで分解するからこそ、最終的には究極的なアメーバの形態が実現されるのだ。

例えば、田和喜氏は「理念+ソロバン」というシステムの中において、企業がアメーバを学ぶプロセスを三段階に分けた。第一段階は、指示を中心とする正三角形の組織で、「ヤモリ経営」、「ミミズ経営」、「アメーバ経営」という三つのモデルが含まれた。

第二段階では、お客さんを中心とする逆三角形組織を築くことで、マーケットの動向に鋭い人に決定権を渡す。

第三段階はアメーバ経営の最高段階で、「エコロジーと共生する」というプラットホーム型の組織で、ハイアールの「創客プラットホーム」と似ている。

各企業の管理基礎と発展段階が違うから、一本調子にならない。しかし全体的に見れば、すべて「理念+ソロバン」という8ステップの原理に従うことができる。上層部から末端組織に至るまで、大から小、粗末から精密、「理念」と「ソロバン」が互いに浸透し、物心両面を重んじる。

人の心から出発し、ステップバイステップで押し広げるべきだ。そこに、多くの中国企業がアメーバを推し進める効果がはっきり見えない理由がある。ここに商品の定価の例を挙げよう。定価はアメーバの核心だと思われている。アメーバ最初期の定価と後期の定価はその目的が全然違うものだと、田和喜氏は思っている。最初の定価は、社員の経営意識を鍛えるためだ。その時の定価はおおよそであって、そんなに正確である必要はない。企業がどんどん大きくなるにしたがって事業部が発展し、その時に本当の相場の値段で取り引きをするのである。「中国では多くの企業はこの値付けのところで教えが詰まっていた。皆は合理的な値段を定めなければならない。そうではないと、不公平だと思う。企業は利潤を採算する目的が「直接お金を分けること」だと思っている。それはアメーバの「人材の育成」という初心から外れるのである。しかも値段を決める方法は本に載っているような唯一なものはない。私たちが作った教材には8、9種類の値段を決める方法がある。」

彼から見れば、アメーバを勉強するためにもっとも重要なのは、心本位にし利他の経営、人材の育成、全員の参加、それらのポイントを繰り返して改善することだ。しかし、この目的地に達するには、企業ごとの行く道があるのだ。

4.現地化の三つの方法論

原理は一方で大切だが、具体的に推し進めること、つまり実践がもう一方で肝心だ。多くの中国人は、最初は信じていない。「アメーバはどこか嘘っぽいと思っているから」というのがその理由だ。したがって、田和喜が提唱した一番の方法論は「術を以って道を載せる」ことである。彼から見ると、簡単に社員を哲学で教育することではなく、その代わりに、企業ごとの経営会計をオーダーメードして、各部門を独立採算の方法でまず自分で帳簿を勘定させ、勘定する中に、経営の難しさと面白さを体験できるようになって、そのうち経営の意識が高められ、社員の表情が変わるというのだ。

「理念+ソロバン」というアメーバ経営に接触した後、郝氏は急に意識しはじめたことがあった。「それは何で企業が赤字になるのか」ということだ。それは不合理な業績制度があるからだ。社員の収入は利潤と関連付けるのか、または売上高と関連付けるのか?売れれば売れるほど赤字になる。利潤の代わりに企業規模を追求するのは、多くのインターネット企業が行き詰まる根源だ。

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田和喜氏は以下のように思っている。採算を考える時、必ず「利他」の考えを注入しなければならない。「利他」で利益を受ける人がいるなら、「利己」で損失をつくる人もいる。社員は経営会計を通して、「利他」による実在的な変化が見えるようになる。簡単に言えば、採算を通して、なぜ社長はこう思うのか、なぜ企業がそうするのか、社員ははっきり理解するようになるのだ。

ステップ2は「道によって術を操る」である。「道」というのは経営哲学だ。田和喜氏は経営哲学が直接企業の経営を指導し、社員を商業実戦に指導できるもので、世の中に流行る価値観ではなく、その企業なりの色を強く持っている。例えば、君子は財を欲するも、その取得には徳行というものがある。どんなお金を稼ぐのか、どんなお金は稼がないのかなどの考えだ。

ステップ3は、理念を経営対策の中に徹底することで、それを採算制度の仕組みに入れることだ。つまり「法を用いて、道を強固する」ということである。仕組みはその持続性と公平性を保つためのものだ。「最初には哲学の理念を言わないで、社員の財布がいっぱいになって、つまり物質的な豊かさのベースができてから、彼らに哲学の理念を話す。その時、彼らは信じるのだ。」田和喜氏はそのように述べた。

5.「利他」なら、長く続く

しかし、アメーバは企業に新しい「壁」をもたらし、企業全体の利益を損なう、と批判されたことがある。田和喜氏は、もし部門の間に傷が付くことがあったら、このような「利他じゃない」結果は、経営会計の報告書に表すようになるのだ。例えば、ある部門の売上高が下がったら、企業全体の利益も下がるのだ。

それは社員が反省するきっかけになるのだ。その結果、生産へのモチベーションも生まれるのだ。もしそのまま改善しなければ、商売がなくなる。「ファーウェイ」末端組織の事業部の営業担当者は、直接生産センターの担当者を見つけ、「この会社は、380元(約6000円)をもらえたら、これとこれの機能を増やすと言ってくれた。あなたたちはできるのか?もし仮にできなければ、彼らに任せるよ。」田和喜氏は、そうするからこそ、企業内部の成長を促すのだ。そうしないと、横たわって眠ることとは一緒だ。それはアメーバが達成したい目標ではない。内部の競争によって外部の競争を促すべきだという。

理念、利益を軸にすること以外に、もっとも重要なことは、社内で協力をしているかどうかであり、それは最終、経営のデータに表れるのだ。「無形な考えを必ず具体化しなければならない。これは『道徳経』には「無中に有を生ず」ということだ。多くの人は形のあることしか見えない。見えるからこそ、彼らは信じるのだ。信じるからこそ、変えるのだ。」田和喜氏はそう言った。同時に、企業は内部の仕組みを振り返って、仕組みの設定から「利他」の広がりを保障する。例えば、アリババでは「価値観」という項目は賞与査定の80%を占めた。会社の価値観を徹底する人は多額の賞与が与えられる。

仕組みに関する例では、道成コンサルティングは「理念+ソロバン」を用いて、「立邦涂料」(日本ペイント)のアメーバコンサルティングを始めた時、二つの営利スタイルを検討した。

つまり、一台の車を対象にして、一番目の経営スタイルは、吹き付けるペイントが多ければ多いほど、売上高が高くなる。二番目の経営スタイルは、標準に相応しい範囲の中でペイントを吹き付けるが、車ごとにペイントの量が下がり、コストが節約される。節約されたコストはウィンウィンにして、双方でシェアする。実は、違う営利スタイルの裏には、違う価値観が隠れている。利己か利他か。利己なら短時間に多くのお金を稼ぐようだが、利他ならもっと長続くのだ。

以上のすべての経験は、田和喜氏と彼の道成コンサルティングのチームが、10年をかけて、7000名の企業メンバーの実践例と、「理念+ソロバン」という考え方でコンサルティングした200例の経験をベースにして、絶えず振り返って、抽出し、まとめた結果だ。

田和喜氏の積極的な提唱の下で、最近、国内では初めてのアメーバ経営管理研究院が広州で正式的に成立した。これは国内初めてのアメーバ経営の中国現地化を中心にして研究を行うNPOで、中国でシステム的な経営スタイルのレベルアップを推し進めるのだ。

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「理念+ソロバン」というアメーバスタイルの助けの下に、これからの中国企業は自らの潜在力を充分に発揮することができ、ますます利潤を得るようになる。そうすることによって、中国社会の全体的な進歩に大きく貢献することを信じている。

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